2026年のAiguille d’Orは、グランド・コンプリケーションにも、ブランドの記念モデルにも、記録を狙った技術的な離れ業にも贈られなかった。11月7日(土)、ジュネーヴ時計グランプリ(GPHG)は最高賞を、Rexhep RexhepiのChronograph Flyback(リファレンスRRCHF)に授与した。ジュネーヴの時計師にとって初のクロノグラフであり、新設計のムーブメントと、厚さわずか9.7mmのケースで組み上げられている。

この選出は、今年の審査員が現代の高級時計をどう読み解いたかを具体的に物語る。受賞作は声高ではない。その成果はプロポーション、構造、仕上げにあり、いずれもコレクターが一目ではなく時間をかけて見極める要素である。

Aiguille d’Orを射止めた時計

GPHGの公式エントリーによれば、この時計はプラチナ製で、直径38.8mm、厚さ9.7mm、30m防水。手巻きキャリバーは21,600振動/時で、パワーリザーブは72時間である。時・分・スモールセコンドを表示し、中央にフライバック・クロノグラフ秒針と、瞬間跳躍式の分積算計を備える。発売時期は2026年4月とされ、GPHGのエントリーには150,000スイスフラン(税込)という価格が記載されている。

プラチナ製のRexhep Rexhepi Chronograph Flyback RRCHF。ストームブルーのエナメル文字盤とブルーグレーのストラップ
RRCHFは38.8mmのプラチナケースを備え、時刻表示を上部のサブダイヤルに置く。写真:GPHG / Rexhep Rexhepi

RRCHFの概要

ケース
プラチナ、38.8mm、厚さ9.7mm、30m防水
ムーブメント
手巻き、21,600振動/時、72時間パワーリザーブ
クロノグラフ
フライバック、コラムホイール、水平クラッチ、瞬間跳躍式の分積算計
文字盤
自社製のストームブルー・グラン・フー・エナメル、スモークサファイアのカウンター
掲載価格
150,000スイスフラン(税込)

初のクロノグラフが意味するもの

時計師にとって初のクロノグラフは、あらゆる妥協があらわになるため、本質を問われる試みである。Rexhepi自身の説明によれば、このプロジェクトは当初から薄さの追求に導かれ、狙ったプロポーションのもとでは、一体型クロノグラフが唯一現実的な道だったという。つまり、薄いケースは後から加えたスタイリング上の判断ではなく、ムーブメントの作り方そのものを決定づけたのである。

設計はその理屈に沿っている。クロノグラフにはコラムホイールと水平クラッチを採用し、分積算計は滑らかに進むのではなく跳躍する。ムーブメントの構造は意図的に非対称である。ケースバックから見えるのはクロノグラフ機構だけで、目に入るのはプッシャーを押したときに動く部分ということになる。

Rexhep Rexhepi RRCHFのエナメル文字盤、段差状の針、スモークサファイアのカウンターを間近で捉えた写真
スモークサファイアのカウンターを通して、エナメル文字盤越しにムーブメントがのぞく。針先は段差状に落とされ、風防を低く収められるようにしている。写真:GPHG / Rexhep Rexhepi

プロポーションとエナメル、そして背後にある工房

文字盤は、この時計がRexhepiの近年の事業拡大と結びつく部分である。ストームブルーのグラン・フー・エナメルは自社製で、ブランドは2024年、ジュネーヴ旧市街に自前のエナメル工房、Les Emailleurs de la Citéを開いた。文字盤はヴィンテージのポケットウォッチ・クロノグラフに着想を得ており、分針と中央秒針の段差状の先端は、装飾であると同時に機能的でもあると説明されている。視認性を高め、風防を低く収められるのだという。

ケースにも同じ規律が貫かれている。ダブルステップのベゼル、角度をつけたラグとプッシャー、そして刻印がケースと縦に揃うよう位置決めされたスクリューダウン式のケースバックである。地板と受けは洋銀製で、GPHGのエントリーによれば、見える部品も見えない部品もすべて、面取り、ブラックポリッシュ、ペルラージュ、コート・ド・ジュネーブ、彫刻によって手作業で仕上げられている。

Rexhep Rexhepi RRCHFプロトタイプのケースバック。クロノグラフの受けと車が見える
公式のケースバック画像に写るのは、プロトタイプと刻印された個体である。サファイアクリスタル越しに見えるのはクロノグラフ機構だけだ。写真:GPHG / Rexhep Rexhepi

独立系工房が形づくった受賞リスト

RexhepiはGPHGに初めて名を連ねたわけではない。Chronomètre Contemporain IIは2022年にメンズ・ウォッチ賞を受けている。ただ、今年は受賞そのものと同じくらい、彼を取り巻く顔ぶれが重要である。1,000人を超えるアカデミー会員と、Wei Kohが委員長を務める審査員団によって選ばれた20の賞には、Otsuka LotecのNo.8に贈られたPetite Aiguille、CleguerのInspiration Oneが受けたコンプリケーション賞、Konstantin ChaykinのAudacity賞、Dominique RenaudのHorological Revelation賞が含まれる。Audemars Piguet、Chopard、Grand Seikoといった老舗も受賞者に名を連ねた。

GPHGはクロノグラフ部門でも、Parmigiani FleurierのTonda PF Chronographe Mystérieuxという別のクロノグラフに賞を贈った。だからこそ、Aiguille d’Orの選択はいっそう際立つ。審査員の総合的な評価は、部門の目新しさにとどまらず、抑制が効いた薄型の手巻きという解釈に向けられたのである。

この賞が決めないこと

Aiguille d’Orは、時計をモノとして評価する賞であり、納期や割り当て、将来の価格について何かを語るものではない。公式資料には生産数が示されておらず、Horomagも、何本が作られるのか、誰が入手できるのかについて一切の想定を置かない。多くの読者にとって実際の価値は、もっと直接的なところにある。受賞した時計は、ジュネーヴの美術歴史博物館(Musée d’Art et d’Histoire)で11月15日まで、ロンドン・ナイツブリッジのWatches of Switzerlandで11月18日〜23日に見ることができる。

審査員が評価したもの

RRCHFが評価されたのは、写真にはなかなか写らない細部である。薄さを軸に設計されたクロノグラフ、跳躍する積算計、位置を揃えたケースバック、工房から数本の通りを隔てたところで作られるエナメル。コレクターにとってのメッセージは、ジュネーヴの最高賞が見せ場ではなく一貫性に贈られたこと、そしてその一貫性を、いまや自らの工房の中でより多く握る作り手に贈られたことである。